語りの力。芸の凄み。

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夢金 談春

中入り

文七元結 談春

「夢金」は、マクラもなしにいきなり噺に入った。雪の降りしきる様子、舟宿の情景、浪人と娘の姿、それぞれが言葉と仕草のみで如実に伝えられる。舟に乗った後の緊張感は、聞いていて身体が強張るほどだった。
「文七元結」は、長兵衛親方が佐野槌を訪れるところから始まる。その前はバッサリとカットされているわけだが、それでも噺は1時間以上かかっていた。カットした分見せ場をたっぷりとやって、噺に説得力を持たせるのが談春流。
CD版の「文七元結」で、談春自身がコメントしているように、この噺のポイントは、佐野槌の女将がなぜ長兵衛に50両もの大金を貸したのかという点だ。談春の「文七」を聴くのは4回目くらいだが、毎回少しずつ演じ方が違って感心する。今回は、女将が吉原を訪れる一流の芸人や画家などを引き合いに出して、長兵衛を説諭する語りが圧巻。吉原の大店の女将をするだけの人物の迫力がよく描かれていた。
もうひとつの見せ場は、やはり長兵衛が吾妻橋の上で、文七に50両やってしまうシーン。文七の身寄りのない自身への想い、生きる方が辛いのだという長兵衛の台詞、ひとつひとつの言葉に魂がこもっていて、聴いていて胸が押しつぶされそうだった。
こうした噺の見せ場をクローズアップしてたっぷり演るのは効果的だが、それを成り立たせているのは、談春の圧倒的な芸の力だ。語りの力に、完全にノックアウトされた一夜だった。